2006/12/28

映画『硫黄島からの手紙』を鑑賞 その1

硫黄島二部作の日本視点映画『硫黄島からの手紙』の感想です。12月9日の公開からずいぶん日にちが経ってしまいましたが、ようやく観に行けましたよ。公開以来なかなか評価が高いようで、どんな描かれ方をしているのか非常に楽しみにしていました。…が、結論から言ってしまうと、個人的には納得できない点が多かった…この感想記事もかなり辛口になってしまいそうですが、興味のある方は読んでみてくださいませ。

終始一貫して戦争のむなしさを訴えるという点では、素晴らしい映画だと思いました。ただ、戦場の兵士たちの描写にものすごい違和感を覚えてしまい、それが気になって純粋に「いい映画だ」とは言えないというのが正直な感想です。アメリカ人の監督が戦争を日本サイドから描くのは画期的なことですが、やはり限界があるのではないかという思いが、とても深い印象として残りました。

命が何より大事だということにもちろん異論はないです。でもそれは今現在を生きる私たちの認識であって、あの時代の日本人は本当にお国のために一命を捧げる覚悟をしている人たちも多かったのではないでしょうか。この映画の描き方だと、集団自決した人たちがまるで無駄死にをしたように思えてしまいますが、そうせざるを得ない状況があったとも考えられないでしょうか。時代背景や受けた教育が全く違うので、現代の常識や尺度だけで歴史を考えてしまっては、本質が見えにくくなると私は思っています。

栗林中将にもかなり違和感があったんですよ。一風変わっていて部下を思いやる指揮官であったという点は、なるほどよく表現されていました。しかし、米軍上陸前の徹底的な爆撃に耐えた大規模かつ緻密な地下洞窟を作りあげたことや、士官から一兵士にいたるまで一貫した信念を浸透させて見事な統率をとったことなどが十分に描かれていなかったように思います。

イーストウッド監督からすれば、そんなふうに戦争を美化する描写が許せなかったのだろうという推測は容易にできますけど、日本兵があそこまで戦い抜けた理由を説明するためには、栗林中将の優れた統率力を描くことが不可欠だったのではないでしょうか。

日本軍の言動とか立ち振る舞いなんかもかなりアメリカナイズされてます(苦笑)。そりゃ実際に戦争を見たことがあるわけじゃないので断言はできませんけど、これが邦画だったら、兵士が文句言いながら作業をするなんてことはあり得ないでしょう。指揮官に平気で盾突いてしまう部下が多すぎたのも、日本らしさを欠いているように思えました。

何しろ全体的に醸し出してる雰囲気が日本っぽくないです。この映画の役者をそっくり欧米人にすり替えたとしたら、アメリカ軍の陣地の描写として案外しっくりくるんじゃないか…とさえ感じましたからね。私が強烈に覚えた違和感は、この映画が良くも悪くも「日本人が思い描いている日本軍のイメージ」とは違うという点にあるのだと思います。

まあ考えてみれば、これはハリウッド映画であって邦画ではないわけだからこれでいいんだろう…という思いも多少あるんですけどね。

おっとっと、何か不出来な評論文みたいになってしまいました。長くなりそうですし、一度ここで区切ることにしましょうか。キャストや普通の感想などは、また明日「その2」にて書きたいと思います。感動した面もたくさんありましたよ。

19:02 | エンターテイメント> 映画 | | コメント (0) | トラックバック (4)
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ありがとうございましたm(_ _)m




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